大谷翔平選手のヒジのケガについて、その裏側に何があるのか考えてみました
今回お伝えする内容です
大谷翔平選手のケガが心配ですね
こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。
あなたも驚いたと思います。
そうです、大谷翔平選手の靭帯損傷のニュースです。
8月27日、メジャーリーグで二刀流として大活躍している大谷翔平選手が、右ヒジの靭帯を損傷したというニュースが流れましたね。そして、ピッチャーとしては、今シーズンは登板しないと発表されました。
この発表には、大谷翔平選手のファンはもちろん、野球ファンだけでなく、多くの日本人が驚きと心配を隠せないことでしょう。
野球界にとって特別な日になったと思います
私は、2023年8月27日は、野球のコンディショニングのあり方を、根本的に考え直すきっかけになった1日のような気がしています。いや、専門家としては、積極的に考えていく必要があると思っています。
というのも、大谷翔平選手の二刀流挑戦は、前例がないからです。ですから、医学的に根拠のあるコンディショニングやトレーニングの理論を再考する必要があると考えています。
今年の大谷翔平選手に関しては、特にWBCでの活躍が印象深いですね。
その後、シーズンに入っても投打に大活躍で、打者としては三冠王も狙える位置にいますし、投手としても10勝しました。
誰もが、絶好調のまま今シーズンを終えると思っていたはずです。
何より軽症であって欲しいと願うばかりですが、ヒジの内側側副靭帯損傷とはどのようなケガなのでしょうか?
そして、どのような治療法があるのかを紹介しながら、大谷翔平選手のケガの裏側にあるものを、私なりに考察してみたいと思います。
ヒジの内側側副靭帯損傷とは
靱帯(じんたい)という言葉は聞いたことがあるでしょうか?
靭帯には、関節を安定させて動かす働きがあります。
骨と骨をつなぐ役割を持つ、強いゴムのようなものだとイメージしてください。
今回の大谷翔平選手のケガは、ヒジの関節にある内側側副靭帯です。
「ないそくそくふくじんたい」と言いますが、ヒジの内側、つまり、体の中心に近い方にあるのがこの靭帯です。
この靭帯は、ボールを投げるときに、腕が変な方向に曲がらないようにサポートしてくれる役割があります。
専門的に言うと、「投球時の後期コッキング期から加速期にかけて」サポートしてくれる靭帯です。
ただし、この靭帯に強い力が繰り返し加わることで、靭帯が炎症したり、伸びてしまったり、切れてしまったりすることがあります。
野球の場合は、
- 投球動作を何度も繰り返す
- 正しいフォームで投げていない
- 変な方向に力が加わる
といったことが原因で、ケガにつながることがあります。
ボールを投げる時、ヒジの関節には「外反:がいはん」ストレスが繰り返しかかります。外反ストレスというのは、腕のヒジから先、前腕が外側に曲がるように力が加わることを言いますが、イメージできますか?
その外反ストレスが、ヒジ関節にかかることで、内側側副靭帯が引っ張られるように力が加わります。
専門的には、牽引力(けんいんりょく)が作用すると言います。そのように、繰り返し靭帯を引っ張るような力が加わることで、内側側副靭帯損傷へと繋がります。
内側側副靭帯損傷は、靭帯の骨への付着部や、靭帯の中央部分で起こります。
特にひどい場合、靭帯と骨の付着部分で、剥離骨折を起こすことがあります。そうすると、肘が異常な方向へ動いてしまうこともあります。
そして、注意して欲しいのは、内側側副靱帯損傷や剥離骨折は、実際に多くの小中学生の野球選手にも起こっているスポーツ障害です。
しかし、いつ発症するのかを予測するのが難しいケガでもあります。
ですから、常日頃から投球数に注意するようにしてください。
内側側副靭帯損傷の治療法について
治療法については、軽症の場合と重症の場合で考え方が違ってきます。
専門的な部分ですから、一度で理解することは難しいかもしれませんし、なんとなくイメージできれば大丈夫です。
とてもザックリと言うと、保存療法か手術かということになります。
軽症の場合(部分断裂)
軽症とは、部分損傷です。
その場合は、PRP療法などの保存療法を行うことが選択肢になります。
PRPとは、Platelet Rich Plasma(多血小板血漿:たけっしょうばんけっしょう)の略ですが、難しくてよくわからないですよね。
この治療法は、患者自身の血液を採取して行う治療法です。
患者の血液の中から血小板を多く含む部分を取り出し、それを患部に注射して再生を促すという治療法です。
ちなみに、この血小板が多く含まれる液体を「多血小板血漿」と呼びます(引用:石橋秀幸・橋本健史、野球 肩・ひじ・腰を治す、西東社、2015年)。
PRP療法の事例
現在楽天の田中将大投手も、2014年7月のニューヨークヤンキース在籍時に、右肘の靭帯部分損傷と診断されてPRP療法を受けました。
田中将大投手は、この治療を行ってから、およそ2ケ月半という短期間で、メジャー公式戦のマウンドに上がりました。そして、復帰戦で勝利投手になっています。
その後も、6年連続で10勝以上の2桁勝利をあげて、2023年現在も楽天で活躍しています。
重症の場合(完全断裂)
重症とは、完全断裂のケースです。
その場合は、靭帯再建の手術を行うことが一般的です。
靭帯再建術とは、損傷した靭帯を再建(補強)するために行われます。
患者自身の手首や膝の裏の腱を、患部に移植する手術方法です。
ヒジの靭帯再建術では、損傷した靭帯を温存した上で、手首や膝の裏の腱を骨に移植する、トミー・ジョン手術が有名ですね。
最近では、ハイブリッド手術も行われています
最近は、修復手術も行われるようになりました。
修復手術と言うのは、インターナル・ブレースという繊維状の補強材や人工靭帯を移植する手術です。
そして、ハイブリッド手術と言うのは、本人の靭帯を使うトミー・ジョン手術と修復手術を組み合わせ、靭帯を補強する手術です。
いずれにしても、難しいことは無理に覚える必要はないです。
ただ、医学は日々進歩しているので、ケガをしても複数の選択肢から手術方法が選べるということは、覚えておくといいかもしれないですね。
ハイブリッド手術の事例
メジャーリーグ、ツインズの前田健太投手が、2021年9月にトミー・ジョン手術にインターナル・ブレースを組み合わせたハイブリッド手術を、日本人選手で初めて受けました。
前田健太投手は、2023年4月に591日という短期間で公式戦復帰登板を果たしています。
大谷翔平選手が手術を選択した場合に考えられること
大谷翔平選手は、2018年に右肘の靭帯を損傷して10月に手術をしています。
2019年には打者として復帰していますが、投手としての復帰は2020年7月です。
つまり、投手として登板するまでに、約2年近くかかったことになります。
今回、大谷翔平選手が軽症の場合、田中将大投手のようにPRP療法を受ける可能性もあります。また、重症の場合は、前田健太投手のように修復手術を受ける可能性もあります。
ただし大谷翔平選手は、過去に靭帯再建の手術を受けています。ですから、田中将大投手や前田健太投手のように早期復帰できるかは分かりません。
仮に、再建術の場合ですが・・・
過去のデータを見る限り、2回目の手術の方が1回目より復帰するまでの時間が長くなっています。ですから、大谷翔平選手が、投手としてメジャー公式戦のマウンドに上がるまでには、2年以上を必要とする可能性が高いと考えられます。
また2回目の手術をした選手は、プレー復帰率も低くなっています。
プレー復帰率というのは、復帰後に手術前と同じレベルでプレーする割合を言います。
そのため、大谷翔平選手が手術を選択した場合は、心配が高まりますね。
大谷翔平選手に限らず、選手としてはプレーしたいという気持ちを優先します。
前田健太投手も昨シーズンはケガをしてしまいましたが、リハビリを取材していたTV番組のインタビューで、「ケガを発症する前から痛かったけど隠していた」という趣旨の発言をしていました。
そこで、広島、中日、楽天で投手として活躍し、現役引退後に楽天で一軍投手コーチを務めた紀藤真琴コーチと、選手とケガの関係性を考察してみたいと思います。
果たして、大谷翔平選手の靭帯損傷の原因は何なのか?
今回のケガを防ぐことはできなかったのか?
そして、今回のケガの裏側にあるものは何なのか?
大谷翔平選手のケガの裏にあるもの
メジャーリーグの投手は、長年の医学的根拠を元に、中4日もしくは、中5日で試合に登板していますね。
そうですね。メジャーリーグは、日本のプロ野球より試合数も多いですし、移動距離も長いですから、選手は大変ですね。
それでも選手はコンディショニングに注意をして、登板しない日には、次回の登板までの調整を行っています。
投手専業の場合は、登板間に体を休めたり調整したりできますが、大谷翔平選手は二刀流ですから条件が違いますね。
自分は投手でしたが、登板の翌日に打者として出場するというのは、たとえDHだとしても、本当に強靭な肉体と精神がないと難しいと思います。
そうですね。大谷翔平選手は、登板しない日にも打者として試合に出場していますね。しかし、二刀流は前例のないことなので、登板間隔や登板後の調整法など、医学的な根拠がまだまだ確立されていません。
だから、登板間隔を、もっと長くすれば良かったというのは結果論にすぎませんね。
登板間隔については、難しい問題ですね。確かに登板間隔をあけると、体への負担は軽くなるかもしれません。しかし投手としての「感覚」が鈍くなることがあります。
投手は登板間隔があきすぎない方が、良い投球ができる場合もあるんです。
なるほど。人それぞれに体の感覚が違いますからね。
今回の大谷翔平選手のケガをきっかけに、医学的根拠をベースにしながら、調整法も選手に沿ってカスタマイズする必要がありますね。
そして、メジャーリーグやプロ野球はプロですから、プロのチームとしての事情があります。つまり、プロは優勝が至上命題なので、勝ちを優先します。だから、どうしても登板間隔が短くなるということもあると思います。
そうすると、大谷翔平選手のケースを現時点で考えると、登板間隔の短さや、二刀流による疲労の蓄積などが、ケガの原因と決めつけることもできませんね。
大切なことは、二刀流の登板間隔、調整法について医学的な研究を進めること。そして正しい根拠の元で、今まで以上に大谷翔平選手への適切な配慮が必要になると思います。
そうですね。
ヒジの靭帯損傷の治療法には、保存療法と手術という選択肢があります。私は、保存療法など、できることはすべて試してみて、最後の手段が手術になると思います。
大谷翔平選手には早く復帰して欲しいですが、本当に大谷翔平選手にとって、リスクがない方法から試してほしいと思います。
自分も、大谷翔平選手の治療がうまくいって、投手として早く復帰できるように願っています。
紀藤コーチ、今回は急な対談のお願いでしたが、ありがとうございました。
ホロス・ベースボールクリニックは、将来のプロ野球選手、MLB選手を目指す小中学生に向けた有益な情報を発信しています。
紀藤コーチは、プロとしての実績はもちろんですが、海外も含めてプロ野球での投手コーチの経験が豊富ですし、そして高校野球の監督も務められました。
これからも、トップレベルの野球選手を目指す小中学生に向けた指導をよろしくお願いします。
最後に、ひと言お願いします。
今回は、このような形で、ホロス・ベースボールクリニックの活動に参加でき光栄です。
先ほどは、プロの視点としてお話をしましたが、小中学生の野球の場合は、勝ちにこだわらず、連投は避けるべきですし、登板間隔もあけるべきでしょう。
何よりケガをしないように指導者や大人が配慮してあげることが重要だと思います。
そうですね。子どもたちがケガをすることなく、楽しく野球ができるように、指導者や大人が、スポーツ医学の基礎知識を持つことは大切ですね。
今回は、どうもありがとうございました。
いかがでしたか?
スポーツ障害は、いつ誰に起こっても不思議ではありません。そして、毎年たくさんの選手が、ケガを理由に野球ができなくなっています。
私は、コンディショニング、動作解析、そしてトレーニングを教える専門家として、ひとりでも多くの小中学生が、ケガをすることなく楽しんで野球を続けてほしいと願っています。
そのための研究を続け、ホロス・ベースボールクリニックとして情報をお届けしていきます。
お子様の野球の上達のことであったり、トレーニングやコンディショニングのことで質問があれば、いつでもメールでご連絡ください。
それでは、またお会いできるのを楽しみにしています。
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