【夏本番前に】少年野球の夏、水分・休憩だけでは足りない理由

【夏本番前に】少年野球の夏、水分・休憩だけでは足りない理由

石橋秀幸
元広島カープ一軍
トレーニングコーチ

「集中力が切れてるぞ、気合を入れ直せ!」

炎天下の試合や練習で、お子さんにそんな言葉をかけていませんか?

「暑いとプレーの質が落ちる」。これは、誰もが感じていることだと思います。

でも、なぜ落ちるのか。頭の中で何が起きているのか。そこまで知っている方は、ほとんどいません。

じつは、最新のスポーツ科学によって、暑さが「判断」や「集中」に何をしているのかが、少しずつわかってきています

こんにちは。ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

水分はこまめに取らせて、休憩も十分に入れている。それなのに、普段ならありえない守備の判断ミスが出る。勝負どころの打席で、あっさり空振りをする。

その原因は「気合」や「根性」だけでは解決しません。

そこで今回は、私の35年以上の研究と最新のスポーツ科学の情報をもとに、「暑さとミスの関係」について、わかりやすく解説していきます。

酷暑対策は、水分や休憩のとりかただけでは足りない。そんな重要な事実がわかってきました。

この内容を知れば、お子さんのプレーを守る具体的な一手が打てるようになります。

ぜひ、最後までお付き合いください。

暑い日のミスを減らすには

暑い日にミスが増えるのは、お子さんの気持ちが弱いからではありません。

暑さそのものが、脳の判断力に影響しているんです。だから、対策も二段構えで考える必要があります。

一段目は、水分と休憩。これは命と体を守る、欠かせない土台です。

そして二段目が、「暑い日の練習の組み方」を変えること。この工夫は、見落とされやすい部分です。

ここからは、暑い日にミスがなぜ起きるのか? 水分と休憩だけでは足りない理由を説明します。

そして、最後にすぐに試せる3つの調整を具体的にご紹介します。

暑い日の判断ミスは、気合だけの問題ではない

暑い日の判断ミスは、お子さんの気合不足が原因ではありません。

「あれだけ言ったのに、なぜまた同じミスを…」。

そう感じて、つい声を荒げてしまったことがあったかもしれません。でも、その苛立ちの矛先は、「暑さ」に向けるべきなんです。

なぜ暑い日に、信じられないミスが多発するのでしょうか?

それは、暑さが脳の「考える力」を落とすからです。

サッカー選手を対象にした研究ですが、こんな事例があります。32℃という日本の夏では当たり前の暑さの中で、競技中の「判断スコア」を測定しました。

すると、18℃の涼しい環境に比べて成績が大きく下がっていたんです(p=.030という、偶然では片づけられない差:Donnan, 2022)

野球も、守備や走塁、打席などで判断が連続します。だからこそ、同じ視点で考える価値があります。

では、なぜ判断ミスが起こるのでしょうか?

激しい運動の最中、脳は「体を動かし続けること」にエネルギーを集中させます。すると、高度な判断を担当する前頭前野(ぜんとうぜんや)の働きが、一時的に落ちると考えられています。

さらに、暑さ自体が脳にとって大きなストレスになります。考えるための限られた作業スペースが、暑さに奪われてしまうわけです。

野球には、高度な判断を必要とする場面がたくさんあります。

  • ランナーの動きを見て、とっさにどこへ送球するか決める
  • 相手投手の配球を読んで、ねらい球を絞る
  • 一瞬のスキを突いて、次の塁を狙う

暑さの中では、脳は体を動かし、熱に耐えるだけで手一杯になります。ダブルプレーの連係のような複雑な判断をする余裕が、なくなってしまうんです。

水分・休憩は正しいけど…

水分補給や休憩を徹底することは、とても正しい対策です。

それは、お子さんの「命と体の安全」を守るための土台だからです。ただ、「プレーの質を守る」には、もう一段の工夫が要ります。

つまり、その日の気温に合わせて、「練習メニュー」を変えるという工夫です。

昼の暑い時間帯に、連係練習を何度も繰り返すと、脳は暑さと判断の両方で疲れ切ってしまいます。できれば、頭を使う練習を涼しい時間に回す。炎天下では負担の軽いメニューにする。

その判断は、親や指導者が決めてあげる必要があるんです。

なお、水分・休憩といった「命と体を守る」ための熱中症対策そのものは、別記事で具体的にまとめています。

関連記事:【徹底解説】野球キッズを酷暑から守る熱中症対策マニュアル2024

暑い日にプレーの質を維持する3つの調整

ここからは、すぐに試せる具体的な調整を3つご紹介します。

まず、判断を使う練習の組み方を具体的に説明します。

近年の夏は、40度を超える日もあります。ダブルプレーの練習や、複雑なサインプレーなど「頭を使う練習」を涼しい時間に回しましょう

代わりに、単純なティーバッティングや基礎的な練習に切り替えます。戦術の確認のように考える力を使うものは、涼しい室内で行うのがおすすめです。

2つ目は、環境と体の準備を整えること。

体にかかる負担を減らすことに加えて、事前の準備が大切になります(Périard, 2022)。

本番の数週間前から、少しずつ暑さに体を慣らしていきましょう。専門的には、暑熱順化(しょねつじゅんか)といいます。

水分補給の仕方にも、ひと工夫できます。汗の量に合わせて、水分や電解質(塩分など)の量を調整するのが効果的だと示されています(Donnan, 2023)。

日頃の練習から自分に合った量を試して、体に覚えさせておきましょう。

3つ目は、冷却や補給を「補助」として使うこと。

冷却グッズやアイススラリー(氷状の飲み物)は役に立ちます。ただし、過信は禁物です。これらは「魔法の杖」ではありません。ここは、とくに誤解されやすいところです。

大学野球選手を対象とした研究があります。暑さ対策で、攻撃の合間に氷タオルで額や首を冷やしても、打球の速度や守備での素早い反応は改善しませんでした(Huang, 2022)。

ソフトボール投手を対象とした研究でも、アイススラリーを飲んで体を冷やしても、投球の精度は変わりませんでした(Numata, 2023)。

冷却すると「気持ちいい」という体感になり、暑さによる体への負担を軽くする助けになります。でも、一度落ちた判断力やプレーの質を、その場で100%に戻す力はありません。

冷却はあくまで「これ以上の悪化を防ぎ、負担を軽くするための補助」だと捉えてください。

さらに、頭が疲れているときに練習を詰め込むとかえって逆効果になることは、スランプの脳科学でも解説しています。

関連記事:【少年野球の落とし穴】スランプ中は練習を増やしてはいけない脳科学的な理由

今回のまとめ

暑い夏に、お子さんのプレーを守るための3つのポイントを試してみてください。

暑い日のミスを根性論で片づけず、科学の目でお子さんの脳と体を守る。その手助けができるのは、一番近くで見守るお父さん・お母さんです。

「気合を入れろ」と言う代わりに、練習メニューを工夫してあげましょう。それだけでも、お子さんが少し楽にプレーできるきっかけになるかもしれません。

その一歩が、暑い日でも無理なく練習を続ける助けになります。

暑い日の練習の組み方や、お子さんの上達に関するお悩みがありましたら、いつでもご相談くださいね。

それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。

次回も、さらに野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

参照文献

1. The effect of exercise-induced fatigue and heat exposure on soccer-specific decision-making during high-intensity intermittent exercise(PMC9754236)

2. The effectiveness of heat preparation and alleviation strategies for cognitive performance: A systematic review(PMC10732620)

3. Intermittent Cooling Reduces Perceived Exertion but Has No Effect on Baseball Hitting or Defense Performance in a Hot Environment(PMC8851114)

4. Effects of ice slurry ingestion on body temperature and softball pitching performance in a hot environment: a randomized crossover trial(PMC10308695)

5. Exertional heat stroke in sport and the military: epidemiology and mitigation(PMC9826288)

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