【野球肩の原因はこれ】投球を続けると何が原因で肩痛になるのか?

【野球肩の原因はこれ】投球を続けると何が原因で肩痛になるのか?

石橋秀幸
元広島カープ一軍
トレーニングコーチ

こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

今回のテーマは「子どもの肩のケガを防ぎ、パフォーマンスを最大化する」です。

野球選手にとって、肩の痛みは深刻な問題ですね。

アメリカの研究では、成長期の投手の約半数がシーズン中に肩やヒジの痛みを訴えています。また、投手以外でも約3割の選手が肩の痛みを経験しているというデータがあります。

特に成長期の子どもは、骨もまだ発育途中ですから、「リトルリーガーズショルダー」などの投球障害を起こしやすいです。

重症化すると数ヶ月間投球ができなくなったり、手術が必要になることもあります。

そこで今回は、私の35年の指導実績と最新の研究データをもとに、子どもの肩を守るための具体的な方法をお伝えします。

今回の内容を知ることで、

  • 子どもの肩のケガを予防し、パフォーマンスを最大化できる
  • 投球数が増えるとどうフォームが変化するのかがわかる
  • どこに投球による疲労のサインが出るのかもわかる

このように、ケガを防ぐ具体的な対策に加え、投球フォームの変化や疲労のサインを見逃さないためのポイントを、わかりやすく解説していきます。

適切な指導とケアができるようになるので、ぜひ最後までご覧ください。

肩はどうやって動くのか

野球にとって肩はとても大事ですが、投球障害が多い部分です。

今回は、わかりやすいように「ケガ」という言い方をしますが、やはり、投手はケガをしやすいです。

肩のケガを予防し対策するために、まずは肩関節はどういうものなのか、簡単に紹介します。

肩の骨はどうなっているか

正しい投球フォームを身につけるためには、肩の関節を適切に動かす必要があります。

そのためには、肩の骨の構造について知っていると役立ちます。

投球動作で重要な役割を果たす肩は、3つの主要な骨で構成されています。これらの骨がどのように組み合わさって機能しているのか、詳しく見ていきましょう。

  • 上腕骨(じょうわんこつ)
    腕の骨で、肩からヒジまで伸びている。
  • 肩甲骨(けんこうこつ)
    背中側にある三角形の鳥の羽根のような骨。
  • 鎖骨(さこつ)
    胸の前面から肩にかけて横方向に伸びる骨。
正面から見たところ

肩は、これらの骨で構成されています。この3つの骨が組み合わさることで、複雑な動きができるようになっているのです。

腕の骨と肩甲骨がつながっているところが「肩甲上腕関節(けんこうじょうわんかんせつ)」と呼ばれる部分です。

野球の投げる動作は、主に肩甲上腕関節で行われていて、ケガも多く発生しています。ですので、ここが野球で重要な肩関節と思ってください。

正面から見たところ

難しい言葉を覚える必要はありませんので、まずは、肩はこういう風になっているということがわかれば十分です。

肩を支える筋肉たち

次は、肩を支えている筋肉について見ていきましょう。

肩は、様々な筋肉が絡み合って、腕の動きをサポートしています。大きく分けて、表面にある大きな筋肉と、その奥にあるインナーマッスルがあります。

ただ、ここでも特に筋肉の名前を全て覚える必要はありません。

投球動作に大きく関わる筋肉については、後ほどしっかり説明しますので、ここでは大まかな働きを知ってください。

肩の表面にある大きな筋肉を「三角筋(さんかくきん)」といいます。野球の投球動作でヒジを上げる時には、この三角筋が大きく貢献しています。

正面から見たところ
後ろから見たところ

そして、表面の大きな筋肉を補佐する役割をしているのが、深部にある「インナーマッスル」と言われる小さな筋肉です。

肩のインナーマッスルには、こうした小さな筋肉が複数あって、肩関節を安定させ、スムーズな動きをするためのサポート役になっています。

  • 肩甲下筋(けんこうかきん)
    投げる時に胸を張ったり、その状態をキープする働きがある。振った腕を安全に減速させるブレーキの役割を担う。
  • 棘上筋(きょくじょうきん)
    肩甲骨と上腕をつなぐ筋肉。小指を上にして腕を上げる時にはこの棘上筋が働く。
正面から見たところ
  • 棘下筋(きょくかきん)
    肩の安定性や腕の動きに関わる筋肉。振った腕を安全に減速させるブレーキの役割を担う。
  • 小円筋(しょうえんきん)
    棘下筋の下にあるインナーマッスル。棘下筋と同様に、投球動作でブレーキを高める作用がある。
後ろから見たところ

このように、肩には投球動作に関わる複数の筋肉があります。

これらの筋肉をバランスよく鍛えること、適切な柔軟性を維持することで投球動作の安定性が増し、ケガの予防にもつながります。

投げ続けると何がどう変わる?

投球数が増えていくと、肩の筋肉にはどのような変化が起きるのでしょうか?

ピッチャーが投げ続けると、肩の筋肉に疲労が蓄積します。それが、パフォーマンスの低下やケガのリスクを高めます。

それについて、日本の大学で行われた研究結果をもとに、詳しく説明していきます。

この研究では、投球を1球目から100球目まで連続で行って、どのように筋肉が疲れていくのかをいろいろな筋肉で調べました。

結果として、三角筋と棘下筋が特に疲れることがわかりました。図はそれを表したものです。

投球開始直後から50球までは、三角筋と棘下筋の疲労度はそれほど高くありません。

ところが、54球を超えたあたりから、これらの筋肉の疲労度が急激に増加していくことが記されています。

この調査は、大学野球の選手を対象に行いました。

つまり、相応の体力と筋力がある選手ということになります。そして、ある程度投球フォームも固まっていると言えます。

それでも、投球が54球を超えてくると、三角筋と棘下筋が疲れ、フォームが変化してしまいます。

ということは、小学生、中学生の場合は、より投球数の管理が重要だということが理解できるのではないでしょうか。

では次に、筋肉の疲労が、どのようにケガにつながるのか確認していきましょう。

肩の疲れがケガにつながる理由

投球による肩の疲労の蓄積は、深刻なケガにつながる可能性があります。

ここからは、筋肉の疲労がどのようにして投球障害を引き起こすのか、その仕組みについて詳しく説明していきます。

適切な予防策を講じることで、肩の疲労によるケガを防ぐことができます。

それでは、詳しく見ていきましょう。

肩の筋肉に起きる疲れとケガとのつながり

実は、投球による肩の筋肉の疲れは、選手には自覚しにくい場合があります。

つまり、選手はフォームの変化を自覚することなく、投げ続けていることになります。

投球による影響で、特に三角筋と棘下筋が疲れやすいことは説明したとおりです。

三角筋が疲労すると、ヒジを上げる動作がスムーズに行えなくなります。つまり、ヒジが下がった投球フォームで投げることになってしまいます。

また棘下筋は、レイトコッキングフェイズでグッと胸を張ってから、肩甲骨をスイングさせるように動かす働きをします。

棘下筋が疲れてくると、どうしても大きく胸が張れなくなり、体が開いてしまいます。体が開くと、肩に大きな負担がかかります。

それは、ケガをしやすい非常に危険な投げ方になっていくということが言えます。

また、投球動作を続けていると、筋肉に小さな傷ができます。専門的には、「微小外傷」と言いますが、そういった小さな傷が蓄積することによって、ケガが起こると考えられています。

特に、成長期の子どもは体が未発達ですから、なおさら注意が必要です。 

指導者や親が、投球数やフォームの変化に気を配り、疲労のサインを見逃さないようにすることが大切です。

疲れを知らせるフォームの変化を知る

説明したように、投球を続けると肩の筋肉が疲れ、ヒジが下がって胸が張れないフォームへと変化します

そのようなフォームで投げ続けると、ケガにつながります。

障害の程度によっては、安静だけではすまずに、手術を必要とするケースも出てきてしまいます。

フォームが崩れケガを引き起こすのは、投げる時の動きのつながりが崩れることが原因として考えられています。

動きのつながりは運動連鎖といいますが、それについては、「速い球が投げられる!下半身から伝わる力を最大限に活かす投球フォームのつくり方」も併せてチェックしてみてください。

では、フォームが変化するというのは、具体的にどういった変化なのでしょうか?

プロ野球での研究結果を見てみましょう。

疲れてヒジが上がらなくなると、投球数が増えるに従って、リリースポイントがだんだん下がっていくことがわかりました。

特に、2軍選手は1軍選手に比べ、リリースポイントの高低差が顕著でした。

1軍選手は体力があるので、100球投げてもリリースポイントはあまり変わりません。2軍選手というのは、若い選手が比較的多いですから、体力面で課題があるわけです。

ということは、小学生や中学生の場合は、少ない投球数でもリリースポイントが下がると考えられます。

リリースポイントが下がると、ストライクが入らなくなります。そうすると、リリースポイントを変えようとする反応的な体の変化が起こります。

その時に、体が傾いてしまいます

図を見てください。赤い線で記しているのが、疲れてない投げ始めの体の軸に対する腕の角度と体の傾きです。頭から踏み出し足がまっすぐないいフォームで投げています。

しかし100球に近づくに従って、青い線のように手の位置が下がってしまいます。

リリースポイントが下がってしまうので、無理に上げようとします。それが、青い線で記しているように、頭の位置が投げる側とは反対方向に傾くことにつながります。

踏み出し足の姿勢はほぼ変わってないですが、頭が傾いていますね。

このように、投球数が増えるにつれてフォームも変化します。

ただ、リリースポイントが下がってくると言われても、実際投げてる動作を見てもよくわからないはずです。

動作自体も早いですし、腕の振りも早いので、なかなか把握することができません。

ですが、プロ野球の研究の結果から、ある傾向がわかりました。
これは、小中学生の投球フォームに顕著に現れます。このチェック方法を次に解説します。

フォームの変化を知る方法

投球数が増えてくると、リリースポイントが下がります。しかし、それを見ていても変化に気づきにくいのが実際のところですね。

でも、プロ野球の研究の結果からわかったことは、リリースポイントが下がるときに一番大きく変わってきたのが、踏み出し足の「膝の角度」でした。

正面からみたら同じように見えますが、少し斜めから見ると、踏み出し足のヒザ関節の角度が深くなり、開いてしまうことがわかりました。

ですから、投球の最初の姿勢をしっかり確認しておけば、「投げ始めよりもなんかヒザ関節が深くなったね」とか、「ヒザが開いてきてるね」ということに気づけます。

それがわかれば、体が傾いている危険なサインだと考えられますね。これは、選手が「疲れてもう無理だよ」というサインを出してると思ってください。

投球数については、メジャーリーグが「ピッチスマートガイドライン」を推奨していますので、参考にしてください。

ただ、その日の体調によっては、より早く体の変化が出るかもしれません。

ですから、投球数はひとつの目安として考えて、投球フォームの変化を見極めることが、指導者や保護者の責任になってくるのではないかと思います。

今回のまとめ

いかがでしたか?

今回は、子どもの肩のケガを防ぎ、パフォーマンスを最大化する方法についてお伝えしました。

成長期の子どもの肩は、骨の構造や筋肉の発育が未熟という理由で、投球障害のリスクが高いことを理解しておくことが重要です。

投げ続けると肩の筋肉が疲労し、フォームが変化することを理解して、疲労のサインを見逃さないでください。

適切な指導とケアによって、ケガのリスクを最小限に抑え、最大限のパフォーマンスを発揮できるようサポートしていきましょう。

それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。

次回も、さらなる野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。

野球上達に関するお悩みや疑問点がありましたら、いつでもご連絡ください。

あなたからのご連絡をお待ちしています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


参考文献:

石橋秀幸著、野球障害で泣かない!肩・ひじ・腰を治す、西東社

石橋秀幸著、マー君をめざす最新トレーニング、廣済堂出版

石橋秀幸著、レベルアップする!野球 科学・技術・練習、西東社

石橋秀幸著、野球体をつくる!、西東社

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