【小中学生の球児必見】簡単だけど効果が出る「ホロス式・投球フォーム改善法」

石橋秀幸
元広島カープ一軍
トレーニングコーチ

こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

前回は、投球動作のメカニズムを、投球のフェイズごとに分けて説明をしました。

投球動作には、6つのフェイズがあり、そのフェイズごとに押さえておきたいポイントがありましたね。
内容を忘れてしまったとか、まだ見ていないようでしたら、ぜひ前回の内容をチェックしてみてください

野球をはじめた時に一番初めに指導されるのが「投げ方」ではないでしょうか?

ということで、今回は投球フォームの改善方法についてお伝えします。

投げ方にクセがあると言われていますか?

「ヒジを肩の高さまで上げてから投げましょう」とか「体を開かないようにして投げましょう」などと言われることが多いと思います。

それでも、特に野球をはじめたばかりの初心者の場合、体の各要素を上手に使うことができる子は少ないです。

たとえば、ヒジを上げて投げることができない子が多いですね。
そして、砲丸投げのように、ボールを押し出すように投げてしまう子もいます。

そのような投げ方がクセになってしまい、中学生になっても体をうまく使えず、ヒジが下がって前に出過ぎている選手も見かけます。

投球動作のメカニズムを理解している指導者なら、そのようなクセを直す方法を選手に伝えることはできるはずです。
しかし、フェイズごとの体の使い方を理解していない指導者だとすると、クセを直すこともできないでしょうし、選手のケガのリスクを高めることにもなってしまいます。

中には、「投球動作は投げないと覚えないから、沢山投げて覚えさせる」といった、古い考え方の指導者もまだいるようです。

しかし、それは時代遅れの考え方です。

野球のピッチャーには、肩・ヒジのケガが多く発生しています。
それは、小中学生の野球選手も例外ではありません。

こうした投球障害の予防のために、投球数の制限がとても重要です。
そして、投球フォームの改善もケガの予防につながります

先ほど、中学生になっても身体的要素をうまく使えず、ヒジが下がって前に出過ぎている選手がいると言いました。
そのような選手は、ボールを押し出すように投げています。

しかし、このような投げ方で投げ過ぎると、肩やヒジのケガを起こしやすくなります。

将来的な障害予防のためにも、早い段階で正しい投球フォームを身につけることが必要です。

そこで、今回は「左右の目の使い方」というキーワードで、効果的な指導を行った事例を紹介します。

コントロールを安定させるピッチングフォームのつくり方

左右の目の使い方を指導する

左右の目の使い方とは、右投げ選手の場合は、ボールをリリースするまでは、左目を使って横目で投球方向を見みます
リリース後は、右目を使って横目で投球方向を見るというものです

実際に、東京の中学生軟式野球チームのメンバー、男女16名に協力してもらいました。

そのテスト方法は、次のとおりです。

・1回目は、何も指導を行わずに投球する
・2回目は、「左右の目の使い方」の指導を行って投球する

それぞれ20mの距離で3球ずつ、計6球投げてもらいました。
その投球動作を撮影し、専門ソフトを使って動作分析を行い、指導前後の動作を比較しました。
比較したのは、各投球フェイズの手足の距離や時間ですが、次のような内容です。

距離と時間を算出

アーリーコッキングフェイズの軸足の位置から踏出し足までの距離は、指導後に大きくなりました。
さらに、ワインドアップフェイズからアーリーコッキングフェイズまでに要する時間が長くなっていました。
指導の結果、それぞれに有意な差が認められました。

つまり、ボールを握っている手がグローブから出て、踏み出し足が地面に着地するまでの時間と距離が長くなりました。
これは、体が開かずに投げられていることを意味します
そして、投球のための力の伝達が、上手くできていることを表しています

見方による投球の変化

今回の指導前の選手の場合、ワインドアップフェイズでの位置エネルギー、アーリーコッキングフェイズでの体重移動(並進運動)が、うまくできない投げ方が多くみられました。

そのような投球動作では、体が早く開いてしまうので、体の各要素を上手く使うことができません
踏み出し足が地面についたとき、両目で投球方向を見ているので、顔全体が投球方向を向いてしまいます。
その場合、ヒジは上がりにくくなります。

実際に、アーリーコッキングフェーズの形をつくってみてください。

両目で投球方向を見るように、顔を真っ直ぐに向けた場合と、左目だけで投球方向を見た場合を比べてみてください。
左目で投球方向を見たほうが、ヒジが上がりやすく感じるはずです。

また、指導前の投げ方では、ヒジが下がって前に早く出過ぎてしまいます。
それが、ボールを押し出すような投げ方になってしまう原因です。

投球のための力の伝達は

  1. ワインドアップフェイズでの位置エネルギーの確保
  2. アーリーコッキングフェイズで体重移動(並進運動)
  3. レイトコッキングフェイズで体幹の回転(回転運動
  4. アクセレーションフェイズで投球する腕の加速

そして、ボールのリリースへと流れます。

特にプロ野球の投手の場合、ボールをリリースするとき、肩は肩甲骨平面上にあります。
そして、その延長線より肘は前に出てきません。
おそらく、この肩甲骨平面上の延長線という表現は、理解するのが難しいと思います。
それについては、後ほど分かりやすく説明したいと思います。

投球動作を視覚化することの大切さ

先ほどのように、ヒジが下がって前に早く出過ぎてしまう投げ方をしている選手は、投球障害のリスクが高まります。
多くの指導者は、クセのある投げ方が投球障害につながるというのは理解しているはずです。

投球フォームの矯正と障害予防については、指導者による考え方が、大きく二つに分かれるようです。

それは、「投球動作は投げないと覚えないので、沢山投げさせて矯正するのが良い」と言う指導者と、

「時間をかけて体力の向上のもと、本人の自然経過による矯正力に委ねるべき」という指導者がいます。

ホロス・ベースボールクリニックとしては、次のように提案します

今回の検証結果からわかるように、「左右の目の使い方」という簡単な方法を実践することで、投球動作の客観的な数値が有意に改善しました。
ですから、正しい投球フォームの指導は、選手本人のためにも必須です。
その際、正しい投球フォームとはどういうものかを視覚化して、選手自身に分かってもらうことが大前提になると考えます。

ボールを押し出すように投げていた選手も、指導後には体の回転に伴ってヒジがスイングされるようになりました。
写真からもわかるように、下肢から始まる運動連鎖を、上肢にうまく伝えることができるようになっています
特にリリースポイントの位置が、指導の前後で大きく改善しました

このように、選手に映像を見せることが、視覚的な変化を確認することにつながります。

もしかしたら、疑問を感じているかもしれません

それは、リリースポイントだと思います。
一般に「球持ちが長い」と、打者にとってタイミングも取りにくく打ちにくいと言われています。
ですから、リリースポイントは打者に近い方が良いと言われています。

しかし、先ほどの写真では、指導前のほうがリリースポイントが打者よりにあります。
結論を先に言うと、リリースポイントの位置は、単に打者に近ければ良いわけではありません。
それは、メジャーや日本のプロ野球の投手を動作解析することで、すでにわかっています。

参考例として、日米で大活躍をした松坂大輔投手の、アクセレーションフェイズを見てみましょう。
力強く、素晴らしい投球フォームですね。

松坂大輔投手のリリースポイントは、踏み出し足の近くにあります
この位置が、肩甲骨平面上です。
このリリースで、肩甲骨平面の延長線より肘は前に出てきません。

繰り返しますが、リリースポイントが、踏み出し足の近くに来ることが重要です。
それは、下半身から始まる力の伝達が、リリースポイントに集約されるからです。
この位置関係によって、力強く投げることができます。

しかし、この中学生の指導前のように、リリスポイントが踏み出し足より前に出過ぎると、力強く投げられません。
そればかりか、力の伝達が上手にできないので、ヒジへの負担が大きくなってしまいます
それでは、ケガのリスクを高めてしまいます。

難しいことはわからないとしても、松坂大輔投手のようなフォームを視覚で脳にインプットしておくことは効果的です。

目の使い方の重要性は理解できましたか?

「左右の目の使い方」という分かりやすい言葉であれば、小学校の低学年でも理解できると思います。
そして、野球初心者はもちろん、クセのついてしまった選手にとっても簡単に実践できる方法です。

今回の検証によって、選手自身の目からの情報処理が、投球フォームの改善につながりました。

正しい投げ方を習得するためには、繰り返しの反復練習が必要です。
しかし、具体的な指導を受けていない選手が、ただ単に反復練習をしていても、効果は上がりません
ただ投げるだけ、ただ自然経過で様子をみるだけでは、正しい投げ方を習得できるはずがありません。
もちろん、投球障害も防ぐことはできません。

つまり、自分の投球動作の長所や短所、そして改善点を選手自身にしっかり理解してもらうことが重要です
それらを理解してもらった上で、正しい反復練習を実践してもらうことで、短期的な上達へとつながります。

もう一度言いますが、「投球動作は投げないと覚えないので、沢山投げて覚えさせる」。
それは時代遅れの考え方です。

選手一人一人の投球動作が違うように、一人一人に合わせた具体的かつ根拠のある指導が必要になります
プロ野球やメジャーリーグでは、すでに1980年代から動作分析や動作解析が盛んに行われています。
私もたくさんの選手の動作分析と動作解析を行ってきました。

小中学生の野球にも、こうしたバイオメカニクスに象徴される、スポーツ科学を導入する時代になっています。


いかがでしたか?

今回は、「左右の目の使い方」を意識することで、投球フォームが大幅に改善することをお伝えしました。
単純なことですが、子どもには実践しやすい練習方法です。
お子様の投げ方を改善したいと思っている、お父さん、お母さんにとっても、指導しやすい内容だと思います。

そして、選手自身が、今の投げ方を視覚で認識することの大切さもお伝えしました。
自分自身の姿を認識することは、動作の改善へとつながるはずです。
さらには、改善した自分自身の映像を繰り返し見ることで、脳に良いフォームをインプットできます
それが、脳から体に出す指令として定着する手助けになります。

ぜひ、実践してください。

ちなみに、ホロス・ベースボールクリニックでは、投球フォームとバッティングフォームの動作分析のサービスの開始を予定しています。
準備が整い次第、公式メルマガでご連絡します。
ご興味のある方は、この機会に公式メルマガにご登録ください。

今回は以上です。

次回もまた、野球の上達につながる有益な情報をお伝えします。

それでは、またお会いしましょう。

参考文献:
石橋秀幸、今関勝、橘肇、投球フェイズにおける左右の目の使い方の違いが投球フォームにもたらす変化とその効果、ベースボール・クリニック p30-33、ベースボール・マガジン社、2005

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