【意外な事実】小中学生投手が試合で崩れる指導とは… “結果重視”の落とし穴

今回お伝えする内容です
【意外な事実】小中学生投手が試合で崩れる
指導とは… “結果重視”の落とし穴
「練習と試合だと、なんでこんなに別人なんだ?」
お子さんが、試合で急にコントロールを乱したり、打ち込まれる姿を見ると、こう思いませんか?
「なんで本番に弱いんだろう?」
「メンタルが弱いな〜」
こんな言葉が頭をよぎったことがあるなら、まずコレを知っておいてください。
こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。
お子さんは、決して心が弱いわけではないんです。才能の問題でもありません。本当の問題は、プレッシャーのかかる場面で”脳と心”をどう使うかを知らないだけ。
これは精神論ではありません!
実は、それを証明する”科学的事実”があります。それを、私の35年以上の研究と指導をもとに、わかりやすく解説しますね。
それを理解すれば、お子さんが試合で活躍するための”マインドセット”が見えてきます。この後、すぐに実践できる”たった3つ”のシンプルな習慣をご紹介します。
ぜひ、最後までお付き合いください。
”技術”の前に”心”が崩れていた? パフォーマンスの波の正体
なぜか、突然パフォーマンスが低下する。しかも試合の重要な場面で…。
この現象、”チョーキング(本番に弱い状態)”と呼ばれるものです。
試合でプレッシャーがかかると、”脳の集中管理機能”が乱れることがあります。するとお子さんは、「なんとかしなきゃ」と焦るあまり、考えすぎてしまいます。
結果的に、普段は無意識にできる体の動きに悪影響を与えてしまうんです。
実は、その背後には、指導者や親の言動が影響しているという研究報告があります。
どういうことでしょうか?
チョーキングの正体は?
お子さんに、チョーキングが見られるとしたら、どんな対策が考えられるでしょうか?
たとえば、脳の前頭前野を、お子さんをリードする”心のキャッチャー”だと考えてみましょう。
この心のキャッチャーは…
- ”集中力”を維持する
- ”状況”を判断する
- ”ゲームプラン”を組み立てる
このように、脳の司令塔の役割を担っています。ところが、極度のプレッシャー下ではうまく機能しないことがあります。
一般的に考えられるのは、失敗への恐怖や親やコーチからの期待など。
これらの”ノイズ”が、心のキャッチャーに一度に送られ混乱したとします。すると、どのボールを要求すればいいのか分からなくなってしまうのです。
では、なぜ脳の司令塔が混乱するのでしょうか?
その原因のひとつが、コーチや親がつくり出す”環境”にあります。研究では、大人が作り出す環境を2種類に分類しています。
結果重視の環境(Ego/Performance Climate):
これは、よく言う勝利至上主義ですね。ミスをした選手を罰するような環境です。
”ミスをした選手にコーチが怒鳴った”というような状況が典型例です。このような環境では、選手のネガティブな感情が増幅されます。
この「怒鳴られるかもしれない」という恐怖は、脳の司令塔の機能に悪影響を与えるのです。
努力と成長重視の環境(Task/Mastery Climate):
これは、結果よりも努力や学びの過程を評価し、ミスを成長の一部としてとらえる環境です。
選手は挑戦することを恐れず、安心してプレーに集中できます。
大人が無意識のうちにつくり出すこの環境が、子どもたちの心に過剰なプレッシャーをかけているかもしれません。
もしそうだとしたら、それがチョーキングを生み出す根本的な原因となっていると考えられます。
”結果重視の環境”と”努力と、成長重視の環境”
お子さんは、どちらのほうがイキイキと野球ができるでしょうか?
一目瞭然ですね。
なお、チョーキングについては、【練習だとできるのに…】試合で力を出せない原因は”気持ち”じゃない|科学が突き止めた意外な原因とは?で詳しく解説しています。

心は確実に鍛えられるという実例!
「本番に弱いのは性格だから仕方ないの?」
そう考えてしまうかもしれませんね。でもそれは、生まれつきの性格ではありません。
実は、適切なアプローチで改善できる”スキル”だったんです。
その強力な証拠が、グリフィス大学とオーストラリア・ナショナルラグビーリーグ(NRL)による画期的な共同研究です。
この研究は、「Life-Fit-Learning」と呼ばれるメンタルヘルスプログラムの効果を検証しました。対象は、12歳から16歳の男女503人です。
特に、精神的な不調のリスクが高いとされた男子選手グループにおいて、驚くべき改善が見られたのです。
不安スコアの劇的な低下:
高リスクの男子選手において、不安スコアが大きく減少しました。
行動面の問題が大幅に減少:
プログラム終了後には、健康なグループのスコアと統計的に遜色ないレベルにまで改善しました。
そして、最も希望に満ちた結果はこれです。
リスクが高いとされた男子選手の実に76.7%が、リスク範囲から脱却。
さらに驚くべきことがありました。
この改善は、プログラムの全ての要素を完璧にこなした選手だけに見られたわけではありませんでした。高リスクの男子選手では、部分的にしか参加できなかった選手たちでさえ改善を示したのです。
完全参加者と同様に、不安や抑うつスコアが大きく低下しました。
これは、まずは習慣を変えることが重要だという何よりの証拠です。
プレッシャー下での心の状態は、適切なトレーニングによって鍛えることができるのです。
このような専門的なプログラムを受けられなくても大丈夫です。効果が示された要素は、ご家庭でも取り入れることができます。
次に、今日から始められる3つのシンプルな習慣をご紹介します。
ちなみみ、試合での不安を解消する方法について【メタ分析で証明】試合で実力を発揮できない子が「結果を出した」今すぐできる科学的解決法もチェックしてみてください。

今日からできる「3つのシンプルな習慣」
さあ、ここからは、具体的に何をすべきかをお話しします。
今からお子さんと一緒に始められる、シンプルで強力な3つの習慣です。
習慣1:プレッシャーを乗りこなす「3秒間の魔法」
プレッシャーのある試合で、安定したピッチングをするために必要なこと。
それが、”プレパフォーマンスルーティン”です。
これは、お子さんにとっての「リセットボタン」のようなものです。
複数の研究をまとめたメタ分析では、プレパフォーマンスルーティンがプラスの効果を発揮することが証明されています。
親子で一緒に、投球前の「3秒間の魔法(おまじない)」をつくりましょう。
- 呼吸を整える:
マウンドで大きく息を吸って3秒止め、ゆっくりと全て吐き出す。その後サインを見ます。
ゆっくりとした呼吸は、心身をリラックスさせる副交感神経系を活性化させます。心拍数を落ち着かせ、体の緊張を和らげる効果があります。 - 言葉を唱える:
呼吸を整えながら、心の中で短いポジティブな言葉を唱えます。
たとえば、「大丈夫」「楽しもう」「一点集中」。
ポジティブなセルフトークは、自己信頼(self-confidence)を高めます。パフォーマンスを向上させることが確認されています。 - 成功をイメージする:
最後に、自分の投げたボールがキャッチャーミットのど真ん中に吸い込まれていく完璧な軌道を思い描きます。
成功体験をイメージすることは、実際にその動きをコントロールする脳の神経回路を活性化させます。筋力の発揮や動作の精度を高める効果があります。
この3ステップを投球のたびに実践してみましょう。
すると、脳はプレッシャーを感じても、”いつもの手順”に集中できるようになります。
これが安定したパフォーマンスにつながるんです。
習慣2:”結果”ではなく”挑戦”を褒め、折れない心を育てる
わかっているつもりでも、ついつい口に出てしまう言葉はありませんか?
お子さんの心の安定に最も大きな影響を与えるのは、親の言葉なんです。お子さんが、試合で過度に緊張してしまうなら…
知らず知らずのうちに、プレッシャーが大きくなっているのかもしれません。
絶対に避けたいこと:
試合の勝ち負けや結果だけに注目し、ミスを責めることです。
これは、子どもの失敗への恐怖や自己批判を強めてしまいます。パフォーマンスの低下につながることがわかっています。
今すぐやるべきこと:
努力のプロセスや挑戦する姿勢を評価しましょう。
たとえば、次のように褒めてみましょう。
- ピンチの場面でも、諦めずに次のバッターに向かっていった姿勢
「あの大変な場面で、気持ちを切らさずに次のバッターに向かっていった姿、最高にかっこよかったよ」 - コーチに教わったことを、試合で試そうとしたこと
「練習でやったこと、試合で試してみようとしたんだね。それだけで大成功だよ」
努力と成長重視の環境をつくることは、お子さんの”成長マインドセット”を育てます。新しい試みを褒めることで、能力は努力によって伸ばせることを教えることができます(成長マインドセット)。
2024年に発表された大規模なメタ分析があります(82件の研究、26,378人のアスリートを対象)。成長マインドセットを持つ子どもは、自己効力感が高く逆境にも強いことが証明されています。
習慣3:「キャッチャーミットを狙え」で脳を味方につける
お子さんのピッチングのパフォーマンスを最大化するカギは、何でしょうか?
その答えは、注意の焦点(Attentional Focus)をどこに向けるかにあります。
研究では、注意の焦点を”内的焦点と外的焦点”に分けています。実は、その効果には雲泥の差があることがわかっています。
なお、それについては、【2025最新理論】体を意識させる指導は逆効果だった!子どもの打撃が変わる新常識で解説していますので、チェックしてみてください。
特に試合中は、「腕をしっかり振ろう」など、体の動きに意識を向ける内的焦点は避けましょう。脳が記憶しているスムーズで自動化された動きが阻害されてしまいます。
”キャッチャーミット”という外部の目標に意識を向ける外的焦点では、脳が「体の動きを制御しなきゃ!」という状況から解放されます。
その結果、最も効率的な動きを自動的に選択できるようになります。
外的焦点が運動の正確性と効率性を高めることは、数多くの研究(Wulf, 2013年のレビューなど)で証明されています。
ぜひ、今回ご紹介した3つの習慣を試してみてください。

今回のまとめ
お子さんの野球は、まだまだ長い旅路です。良い日もあれば、悪い日もあるはずです。
でも、パフォーマンスに波がある原因は、技術や気持ちの問題ではありません。
ご紹介した科学的アプローチを実践することで、お子さんはプレッシャーを乗りこなすことができるはずです。
そして、お子さんが試合で本当の力を発揮する喜びを、ぜひ一緒に味わってください。
それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。
次回も、さらなる野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。
野球上達に関するお悩みや疑問点がありましたら、いつでもご連絡くださいね。
あなたからのご連絡をお待ちしています。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
参考文献:
Yu R. Choking under pressure: the neuropsychological mechanisms of incentive-induced performance decrements. Front Behav Neurosci. 2015 Feb 10;9:19. doi: 10.3389/fnbeh.2015.00019. PMID: 25713517; PMCID: PMC4322702.
Sosnowski, Meg & Brosnan, Sarah. (2023). Under pressure: the interaction between high-stakes contexts and individual differences in decision-making in humans and non-human species. Animal Cognition. 26. 1-15. 10.1007/s10071-023-01768-z.
Lochbaum M, Sisneros C. A Systematic Review with a Meta-Analysis of the Motivational Climate and Hedonic Well-Being Constructs: The Importance of the Athlete Level. Eur J Investig Health Psychol Educ. 2024 Apr 9;14(4):976-1001. doi: 10.3390/ejihpe14040064. PMID: 38667819; PMCID: PMC11048888.
Tuba Boz, Hariz Halilovich & Patrick O’Keeffe. ‘Chipping’ away at barriers: trust as an antecedent to sport participation among Muslim women and girls in Melbourne. Leisure Studies 0:0, pages 1-21.
Levental O, Yaffe Y, Lev Arey D. Goals and Success in Sport: The Perspectives of Parents and Adolescent Girls in Kayaking. Behav Sci (Basel). 2023 Jul 12;13(7):580. doi: 10.3390/bs13070580. PMID: 37504027; PMCID: PMC10376742.
Huang D, Wang H, Tang Y, Lei H and Koh D (2025) Enhancing athlete performance under pressure: the role of attribution training in mitigating choking. Front. Psychol. 16:1435374. doi: 10.3389/fpsyg.2025.1435374
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