【9割の親が知らない】野球をがんばる子どもが肩を壊す「疲労サイン」の見つけかた

【9割の親が知らない】野球をがんばる子どもが肩を壊す「疲労サイン」の見つけかた

石橋秀幸
元広島カープ一軍
トレーニングコーチ

こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

今回は、肩の疲労がケガを引き起こすメカニズムと、その予防法についてお話しします。

最近、子どもが肩を痛がっているみたい…」

フォームが変わってきた気がするけど、大丈夫かな?」

こうした不安は、野球に打ち込むお子さんを持つ親なら、誰もが一度は経験するのではないでしょうか。

投球の継続により、肩の筋肉には疲労が蓄積されていきます。しかし子どもたちは、この疲労を自覚することが難しいのです。

実際、「肩が疲れた」と自ら訴えてくる子どもはほとんどいません。

そして知らず知らずのうちに、投球フォームが崩れ始めます。一投一投が、さらなる疲労を積み重ねていくのです。

私がプロ野球選手を対象に実施した研究からも、投球疲労によるフォームの乱れが、ケガのリスクを高めることが判明しています

さらに成長期の子どもの場合、体が発育途中ですから、理想的なフォームの習得自体が困難です。

このことが、取り返しのつかない深刻なケガにつながるリスクを、より一層高めているわけです。

日々、懸命に練習しているお子さんです。ケガで野球を続けられなくなってしまうのは、選手本人はもちろん、支えてきたご家族にとっても大きな痛手となりますね。

そこで今回は、次の3つの重要なポイントについて解説していきます。

肩の疲労がケガを引き起こすメカニズム

・見逃してはいけない危険なサイン

・フォームの変化を察知するためのチェックポイント

これらについて、私が35年間の指導で得た知見と、最新の研究成果を基に、明日からすぐに実践できる予防法をご紹介します。

これらの知識を身につけることで、お子さんの疲れのサインに早く気づけるようになります。また、投球フォームの小さな変化から、危険を予測することも可能になるでしょう。

この内容は、小中学生の野球選手を持つお父さんお母さんにとって、特に大切です。

ですから、どうぞ最後までお付き合いください。

肩の疲れはなぜケガにつながるのか

野球の投球動作を繰り返すことで、お子さんの肩には疲れがたまっていきます。

この疲れを放っておくと、深刻なケガになる可能性があります。

では、なぜ肩の疲れがケガを引き起こすのでしょうか?

これから、そのメカニズムについて、分かりやすく説明していきます。

正しい知識を持って早めに対処すれば、ケガは防ぐことができます。ですから、これからお伝えする内容を何度か繰り返し確認してみてください。

それでは、詳しく見ていきましょう。

肩の筋肉に起きる疲れとケガとのつながり

実は、投球による肩の筋肉の疲れは、選手には自覚しにくい場合があります。

つまり、選手はフォームの変化を自覚することなく、投げ続けていることになります。

投球による影響で、特に三角筋(さんかくきん)と棘下筋(きょくかきん)が疲れやすいことは「投球を続けると何が原因で肩痛になるのか?」で説明したとおりです。

三角筋が疲労すると、ヒジを上げる動作がスムーズに行えなくなります。つまり、ヒジが下がった投球フォームで投げることになってしまうのです。

また棘下筋は、レイトコッキングフェイズでグッと胸を張ってから、肩甲骨をスイングさせるように動かす働きをします。

棘下筋が疲れてくると、どうしても大きく胸が張れなくなり、体が開いてしまい、肩に大きな負担がかかります。

それは、ケガをしやすい非常に危険な投げ方になっていくということが言えるわけです。

また、投球動作を続けていると、筋肉に小さな傷ができます。専門的には、「微小外傷(びしょうがいしょう)」と言いますが、そういった小さな傷が蓄積することによって、ケガが起こると考えられています。

特に、成長期の子どもは体が未発達ですから、なおさら注意が必要です。 

指導者や親が、投球数やフォームの変化に気を配り、疲労のサインを見逃さないようにすることが大切です。

疲れを知らせるフォームの変化を知る

説明したように、投球を続けると肩の筋肉が疲れ、ヒジが下がって胸が張れないフォームへと変化します。

そのようなフォームで投げ続けると、ケガにつながります

障害の程度によっては、安静だけではすまずに、手術を必要とするケースも出てきてしまいます。

フォームが崩れケガを引き起こすのは、投げる時の動きのつながりが崩れることが原因として考えられています。

動きのつながりは運動連鎖といいますが、それについては、「速い球が投げられる!下半身から伝わる力を最大限に活かす投球フォームのつくり方」も併せてチェックしてみてください。

では、フォームが変化するというのは、具体的にどういった変化なのでしょうか?

プロ野球での研究結果を見てみましょう。

疲れてヒジが上がらなくなると、投球数が増えるに従って、リリースポイントがだんだん下がっていくことがわかりました。

特に、2軍選手は1軍選手に比べ、リリースポイントの高低差が顕著でした。

1軍選手は体力があるので、100球投げてもリリースポイントはあまり変わりません。2軍選手というのは、若い選手が比較的多いですから、体力面で課題があるわけです。

ということは、小学生や中学生の場合は、少ない投球数でもリリースポイントが下がると考えられます。

リリースポイントが下がると、ストライクが入らなくなります。そうすると、リリースポイントを変えようとする、反応的な体の変化が起こります。

その時に、体が傾いてしまうのです。

下の図を見てください。赤い線で記しているのが、疲れてない投げ始めの、体の軸に対する腕の角度と体の傾きです。頭から踏み出し足がまっすぐないいフォームで投げています。

しかし100球に近づくに従って、青い線のように手の位置が下がってしまいます。

リリースポイントが下がってしまうので、無理に上げようとします。それが、青い線で記しているように、頭の位置が投げる側とは反対方向に傾くことにつながります。

踏み出し足の姿勢はほぼ変わってないですが、頭が傾いていますね。

このように、投球数が増えるにつれてフォームも変化します。

ただ、リリースポイントが下がってくると言われても、実際投げてる動作を見てもよくわからないはずです。動作自体も早いですし、腕の振りも早いので、なかなか把握することができません。

ですが、プロ野球の研究の結果から、ある傾向がわかりました。

これは、小中学生の投球フォームに顕著に現れます。このチェック方法を次に解説します。

フォームの変化を知る方法

投球数が増えてくると、リリースポイントが下がります。しかし、それを見ていても変化に気づきにくいのが実際のところですね。

でも、プロ野球の研究の結果からわかったことは、リリースポイントが下がるときに一番大きく変わってきたのが、踏み出し足の「膝の角度」でした。

正面からみたら同じように見えますが、少し斜めから見ると、踏み出し足のヒザ関節の角度が深くなり、開いてしまうことがわかりました。

ですから、投球の最初の姿勢をしっかり確認しておけば、「投げ始めよりもなんかヒザ関節が深くなったね」とか、「ヒザが開いてきてるね」ということに気づけます。

それがわかれば、体が傾いている危険なサインだと考えられますね。

これは、選手が「疲れてもう無理だよ」というサインを出してると思ってください。

投球数については、メジャーリーグが「ピッチスマートガイドライン」を推奨していますので、そちらも参考にしてください。

ただ、その日の体調によっては、より早く体の変化が出るかもしれません。

ですから、投球数はあくまで目安に過ぎません。そのため、投球フォームの変化を注意深く観察することが重要です。

フォームの変化をいち早く見極めることは、指導者や保護者にとって大切な役割だと言えるでしょう。

今回のまとめ

いかがでしたか?

今回は、肩の疲労がケガにつながる理由と、その予防策について解説しました。

成長期の子どもは体が未発達なため、肩を痛めやすい傾向があります。

投球による疲れは、フォームの変化となって現れます。特に、踏み出し足の膝の角度が変わってきたら要注意というお話をしました。

フォームの異変に気づいたら、すぐに休ませることをお勧めします。投球数の管理と日頃のケアが、お子さんの野球人生を守るカギとなります。

その具体的な方法については、またの機会に詳しくお話しします。

今回の内容を繰り返し確認し、お子さんの投球フォームの変化に気づけるようになっていただければと思います。

それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。

次回も、さらなる野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。

野球上達に関するお悩みや疑問点がありましたら、いつでもご連絡ください。

あなたからのご連絡をお待ちしています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


参考文献:

石橋秀幸著、野球障害で泣かない!肩・ひじ・腰を治す、西東社

石橋秀幸著、マー君をめざす最新トレーニング、廣済堂出版

石橋秀幸著、レベルアップする!野球 科学・技術・練習、西東社

石橋秀幸著、野球体をつくる!、西東社

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Thompson SF, Guess TM, Plackis AC, Sherman SL, Gray AD. Youth Baseball Pitching Mechanics: A Systematic Review. Sports Health. 2018 Mar/Apr;10(2):133-140. doi: 10.1177/1941738117738189. Epub 2017 Nov 1. PMID: 29090988; PMCID: PMC5857730.

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