【研究結果】少年野球選手の10人に1人が経験する投球の異変とは?

【研究結果】少年野球選手の10人に1人が経験する投球の異変とは?

石橋秀幸
元広島カープ一軍
トレーニングコーチ

またボールが高く抜けた…

バックネットを鳴らす音が、グラウンドの隅まで届く。

「先週までは、ちゃんとストライクが入っていたのに。大会まで、あと2週間しかありません」

「これってイップスなんでしょうか?それとも、ただの調子の波なんでしょうか?」

こんな相談がありました。

じつは「イップス」は、ここから先がイップスという基準がありません。だから、制球の乱れ方がひどいか軽いかで考えているかぎり、答えは出ないんです。

実は、もっと別のところに手がかりがあります。

こんにちは。

ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

いわゆるイップスとは、狙ったところにボールがいかなくなる状態です。

それを、私の35年以上の研究と指導経験の中で見えてきたことをもとに、わかりやすく説明していきます。

今のお子さんが、しばらく様子を見ていい状態なのか、専門家に相談したほうがいい状態なのか。

今回の内容を最後まで確認すれば、その線引きの基準がわかります。お子さんも、「どうして、ちゃんと投げられないんだろう」という不安を1人で抱え込まずにすみます。

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イップスは「現れ方」を手がかりにする

お子さんの投球が乱れると、四球が増えたり、暴投が増えたりします。

じつは、イップスは、ピッチャーだけが経験するものではありません。内野手が一塁へ送球するときにも、捕手が二塁へ投げるときにも起こります。

ここからは、お子さんの何を見ればいいのか。そして、家でどう記録すれば、解決に向かえるのかを順にお伝えします。

症状がひどいか軽いかだけで見ていませんか?

イップスかどうかを、数字で決めることは難しいです。

たとえば、今日は10球のうち2球が外れた。次の練習では8球外れた。どちらがイップスで、どちらが調子の波なのでしょうか?

それを見分けるには、投げ終わったあとの結果だけでなく、投げている最中に体で起きていることを確認する。それがポイントです。

研究では、イップスをこう説明しています。

イップスは、脳から筋肉に「投げろ」と伝える信号のルートが、何かの拍子にバグを起こしてしまう。自分の意思とは関係なく体に勝手にブレーキがかかってしまう状態なんです。

(Maruo, 2024)

その結果、投げたボールがどこへ行くか、自分でもコントロールできなくなります。

では、どのくらいの子にイップスは起きているのでしょうか?

285人の少年野球の選手に、質問票を配った調査があります。イップスの症状があると答えたのは10.2%でした。ポジション別に見ると、投手ではっきり高くなっていました(Maruo, 2024)。

では、何を手がかりに、解決すればいいのでしょうか?

なお、緊張で急に力が出せなくなる「チョーキング」という、また別の現象もあります。その違いを、こちらの関連記事でご紹介しています。

関連記事:【練習だとできるのに…】試合で力を出せない原因は”気持ち”じゃない|科学が突き止めた意外な原因とは?

見るべきは「ひどさ」でなく…

じつは、イップスには決まった傾向があります。

さきほどの285人の調査では、症状のある選手に「どんなときに困るか」を聞いています。

いちばん多かったのは、短い距離の投球でした。遠くへ全力で投げる場面ではなかったんです。

約75%の選手が、短い距離になると「投げにくい」と答えています。指からボールを離す瞬間に問題が出ると答えた選手も、62.1%いました(Maruo, 2024)。

調子が落ちているだけなら、難しい場面ほど投球が乱れそうに思えますね。

たとえば、全力投球のほうが、送球が乱れるはずだと考えてしまうと思います。でも、データが示したのは、その逆でした。

同じような結果が、別の年代でも出ています。

大学野球の選手107人を調べた研究もあります。そこでも、短い距離の投球のほうが、50m以上の投球よりエラーの頻度が高くなっていました(Aoyama, 2021)。

そして、同じ大学生の研究が、もうひとつのクセを見つけています。それは、イップスの始まり方です。

研究者は、選手本人の記憶をもとに、イップスが始まったきっかけで選手を整理しました。

ひとつは、エラーや叱られた経験など、心理的なきっかけがあった19人です。

もうひとつは、フォーム変更3人と特に思い当たるきっかけがない22人の選手を合わせた25人です(Aoyama, 2021)。

加えて、イップスのない55人とも比べています。すると、イップスの始まり方が分かりました。

フォームを変えた、または思い当たるきっかけがないグループは、25人のうち20人が少しずつ悪くなっていました。ある日突然ではありません。じわじわと進んでいたのです。

心理的なきっかけがあったグループは違いました。急に始まった人が9人、少しずつ始まった人が10人でした。ほぼ半々です(Aoyama, 2021)。

イップスには、きっかけが思い当たる場合も、はっきりしない場合もあります。

日によって現れたり消えたりするものではありません。日によって揺れるのは、ひどさのほうです。

イップスの解決のカギは、この始まり方を記録することです。次にそれを説明します。

なお、エラーの直後にかけた一言が、子どもの脳をかえって不安な状態にしてしまうことを、こちらの関連記事でご紹介しています。

関連記事:【要注意】野球で「切り替えろ!」が逆効果になる脳の仕組み|ミスをひきづる本当の理由

「場面・きっかけ・経過」を記録して、必要なら相談する

イップスを克服するには、専門的な知識が必要です。

ですから、お子さんの状態を、親御さんやコーチが判定するのは、簡単ではありません。

そこで、専門家に見てもらうとき、そのまま渡せる材料を手元にそろえておくことをおすすめします。

必要なのは、練習のあとに1行のメモを残すことです。特別な道具も、野球の専門知識もいりません。スマホのメモでOKです。

書くのは3つです。

  1. どれくらいの距離・強さで投球が乱れたか
  2. いつ、何をきっかけに始まったのか
  3. どのくらい続いていて、改善しているのか悪化しているのか

1つ目は、その日の練習を見て書きます。「近い距離の送球で乱れた。遠投は普通だった」。この程度で十分です。

お子さんに「今日はどれくらいの距離が投げにくかった?」と聞いてもかまいません。

2つ目は、本人の思い出せる範囲できっかけを書きます。

  • 試合でのエラー
  • コーチからの叱責の言葉
  • フォームを変えた時期

さきほどの研究でも、きっかけが思い当たらない選手のほうが多かったですね。思い当たらなければ「わからない」でかまいません。

3つ目は、週に1回で大丈夫です。「先週より投げやすそうか」を書いておきます。本人の感覚も確認して記録しておきましょう。

3週間分たまると、良くなっているのか、悪くなっているのか、停滞しているのかが見えてきます。

そのうえで、次のような場合は、医療機関に相談してください。

  • 肩やヒジに痛みやしびれがある
  • 食事や睡眠、学校生活に影響が出ている
  • 何か月も続いていて、悪くなっている

専門家に相談するとき、3週間分のメモが判断材料になります。

イップスの可能性を感じている場合は、次の練習のあとで記録を始めてみてください。

ちなみに、肩やヒジの痛みが様子を見ていいものか、それとも危険なサインなのかを見分ける具体的な基準も、こちらの関連記事でご紹介しています。

関連記事:【最新研究】野球肘・成長痛の危険度を5分で判定する3つの科学的指標

今回のまとめ

イップスかどうかに、はっきりしたラインはありません。

ですから、今日お話しした見極め方を参考にしてください。

そして、お子さんが、原因のわからない不安を1人で抱え込まないようにサポートしていきましょう。

お子さんの投球が急に乱れて、イップスなのか調子の波なのか分からずお困りでしたらいつでもご連絡くださいね。

それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。

次回も、野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。

最後までご覧いただき、本当にありがとうございました。


参考文献

1. Exploring Throwing Yips in Youth Baseball Players: Prevalence, Symptoms, Players’ Psychological Characteristics, and Triggers(PMID: 39529306)

2. Difference in Personality Traits and Symptom Intensity According to the Trigger-Based Classification of Throwing Yips in Baseball Players(PMC8424038)

3. Conscious motor processing and the pressure-performance relationship: a systematic review(DOI: 10.1080/1750984X.2022.2127327)

4. Sport-Related Performance Anxiety in Young Athletes: A Clinical Practice Review(PMC11811592)

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